FLOWのダッシュボードには、色のついたマス目、⚠や◎の記号、「過熱」「売られすぎ」といったラベルが並んでいます。このページでは、それぞれの数字が何を測っていて、どういう条件でその表示になるのかを、実装どおりに説明します。ダッシュボード上の短い説明では省いている「しきい値」まで書いてあります。
先に結論を書くと、FLOWが出しているのは予測ではなく計測結果です。「上がる」と言っているのではなく「上がってきた/下がってきた」を測って並べています。唯一の例外は「見通し」欄で、そこだけは後述のバックテストで効果を確認したサインに絞ってあります。
1. 4つの時間軸は「営業日ベースの騰落率」
ヒートマップの4列は、それぞれ以下の営業日数で計算した単純な騰落率です。カレンダーの日数ではありません。
| 表示 | 計算 | 意味 |
|---|---|---|
| 1D | 1営業日前との比較 | その日のノイズ |
| 1W | 5営業日前との比較 | 短期の爆発力 |
| 1M | 21営業日前との比較 | いまのトレンド |
| 3M | 63営業日前との比較 | 中長期の安定性 |
暗号資産だけは3列(1D・1W・1M)です。セクターを代表トークンの平均で作っている都合上、63営業日分の履歴が揃わない銘柄があるためです。
色の濃さ
緑が資金の流入、赤が流出。濃さは±20%で振り切ります。つまり真っ赤・真っ緑のマスは「20%以上動いた」という意味で、それ以上は濃さでは区別できません。数字を直接見てください。
2. 並び順を決めている合成スコア
各市場のセクターは、単一の期間ではなく重み付き合成スコアの降順で並んでいます。
| 対象 | スコアの式 |
|---|---|
| 米国株・日本株・コモディティ | 1W × 0.35 + 1M × 0.40 + 3M × 0.25 |
| 暗号資産 | 1W × 0.45 + 1M × 0.55 |
中期(1M)に最も重みを置き、短期の爆発力と中長期の安定性を両側から支える配分です。1Dは並び順に一切影響しません。日々の上下で順位が入れ替わらないようにするためです。
3. ⚠反転注意 と ◎新主役候補 の正確な条件
この2つの記号は感覚ではなく、固定のしきい値で機械的に付いています。
⚠ 反転注意
最長期間が +8%以上、かつ 1Wが −3%以下。
中長期では明確に上げてきたのに、直近1週間で失速したセクターです。「旧主役の勢いが切れ始めた」状態を拾います。
◎ 新主役候補
最長期間が +5%以下、かつ 1Wが +3%以上、かつ 1Mが 0%以上。
中長期ではまだ目立っていないのに、直近で加速し始めたセクターです。順張りで乗るならこちら側になります。
「最長期間」は株・コモディティでは3M、暗号資産では1Mを指します。
4. リスク選好ゲージの中身
ゲージは、各市場を「攻め」と「守り」の2グループに分け、攻めグループの合成スコア平均 − 守りグループの平均で算出しています。プラスならリスクオン、マイナスならリスクオフです。
| 市場 | 攻め | 守り |
|---|---|---|
| 米国株 | 半導体・テクノロジー・一般消費財・通信 | ヘルスケア・生活必需品・公益 |
| 日本株 | 電機精密・自動車輸送機・鉄鋼非鉄・機械 | 食品・医薬品・電力ガス |
| 暗号資産 | AI・Meme・L2 | DeFi・RWA・L1基盤チェーン |
| コモディティ | 原油・銅・穀物 | 金・銀・プラチナ |
総合ゲージの針は株と暗号資産だけで決めています。コモディティはリスク選好というよりインフレ・実需の軸なので、同じ物差しに混ぜず別枠で表示しています。
5. 金利:モメンタムの背景
ゲージの下にある「金利:モメンタムの背景」と「クレジット」の2枚です。金利そのものを当てにいく欄ではありません。上のヒートマップの並びが金利で説明できるかどうかを見るための材料です。
なぜヒートマップに混ぜていないのか
金利だけは、他のマス目と同じ色で並べると意味が反転します。ヒートマップの「+」は価格が上がったこと=乗るべき対象を意味しますが、利回りの「+」は債券価格が下がったことを意味するからです。そのため金利は5つ目の市場としては扱わず、緑赤とは別の配色(▲=利回り上昇、▼=利回り低下)にしています。
データ源は発行体の公表値
| 対象 | 取得元 |
|---|---|
| 米 2年・10年・30年 | 米財務省「Daily Treasury Par Yield Curve Rates」 |
| 日 2年・10年・30年 | 財務省「国債金利情報」 |
市場データ配信ではなく、発行体である両国の財務省が公表している値をそのまま使っています。これは精度の問題でそうしています。よく使われるYahoo Financeの短期金利指数(^IRX)は割引率(discount rate)であって利回り(bond-equivalent yield)ではなく、2026年8月21日時点で3.71%と表示されますが、米財務省の3ヶ月物の値は3.88%です。17bpずれます。この値でイールドカーブを計算すると、傾きがそのぶん誤ります。また米国の2年債利回りはYahooに指数が存在しないため、財務省のデータでなければ2年が扱えません。
「上昇」「低下」と表示する基準
固定のbp幅では判定していません。その年限が過去5年、1ヶ月(21営業日)でふだんどれだけ動いてきたかの標準偏差を計算し、直近1ヶ月の変化がそれを超えたときだけ▲▼を表示します。
年限ごとに変動の大きさがまったく違うためです。たとえば同じ「+20bp」でも、米国の2年債では平常の範囲ですが、日本の2年債では極めて大きな動きです。固定幅にすると、この2つを同じ強さの信号として扱ってしまいます。画面には「平常の振れ幅の◯倍」という形で、実際に何倍の動きだったかを併記しています。
水準の注記(「上位1%の高水準」など)
各年限の下に小さく出る注記は、直近およそ10年のなかでの位置です。上位10%または下位10%に入ったときだけ表示し、それ以外は何も出しません。米国債と日本国債で同じ窓を使っているので、並べて比較できます。
「○年○月以来の高さ」と書くのは、1年以上さかのぼらないと同じ水準が見つからない場合だけです。数週間前に少し高かっただけで「先月以来の高値」と書いても情報量がないため、その場合はパーセンタイル表記に切り替えています。
イールドカーブ
10年利回り − 2年利回りを、米国と日本それぞれで表示します。0bp未満なら「逆イールド」、0〜50bpで「フラット」、50bp超で「順イールド」です。
逆イールドは景気後退の先行指標として知られますが、発生から実際の後退入りまで1〜2年ずれるため、売買のタイミングには使えません。形状の記録として置いています。
金利感応度:ここがこのカードの本体
「金利が上がると銀行が買われ、不動産と公益が売られる」という説明はよく見かけます。これは多くの景気循環を平均した話であって、今月そうなっているという意味ではありません。FLOWはこれを教科書どおりに書くのではなく、実際に測っています。
各セクターの日次リターンを、同じ日の10年利回りの変化(bp)に対して回帰します。期間は直近63営業日(約3ヶ月)です。出てくる数字は2つです。
- β(ベータ):金利が10bp動いた日に、そのセクターが平均何%動いたか
- 相関:その関係がどれくらい安定しているか(−1〜+1)
相関の絶対値が0.25未満のセクターは表示しません。これは観測数63のときの、およそ5%有意水準にあたる値です。それ未満の連動は偶然と区別がつかないため、載せても読み手を誤らせるだけです。どのセクターも0.25に届かない場合は「いまの順位は金利では説明できない」と表示します。
この作りにしている理由は、実際にやってみると教科書どおりにならないことがあるからです。導入時(2026年8月)の実測では、米国株で金利と最も強く連動していたのはエネルギー(相関+0.52)で、金融は有意な連動を示しませんでした。「金利上昇=銀行に追い風」と書いていたら、その時点の事実と食い違っていたことになります。
クレジット
HYG(ハイイールド社債)・LQD(投資適格社債)・IEF(米国債7-10年)の3本を、ヒートマップと同じ合成スコア(1W×0.35 + 1M×0.40 + 3M×0.25)で比べます。
これは信用スプレッド(OAS)そのものではありません。ETFのトータルリターンの相対比較であり、スプレッドの方向をなぞる代用指標です。本来はICE BofAのOAS系列を使うべきところですが、配信元に当サーバーから安定して接続できないため、代用であることを明示したうえでこの形にしています。
| 表示 | 条件 |
|---|---|
| リスクオン | HYG−LQD と HYG−IEF が2つとも +0.5pt 以上 |
| リスクオフ | 2つとも −0.5pt 以下 |
| 中立 | 符号は同じだが、片方が 0.5pt に届かない |
| まちまち | 2つの符号が逆 |
なぜ2つ見るのか。LQDのデュレーション(金利感応度)は約8年、HYGは約3年と大きく違います。そのためHYG−LQDだけを見ると、金利が動いただけなのに信用不安が起きたように見えることがあります。デュレーション差の向きが異なるHYG−IEFと突き合わせ、両方が同じ方向を指したときだけ判定を出すことで、金利の動きをクレジットの信号と読み違えないようにしています。
この層はバックテストしていません
重要な区別なので明記します。「7. 検証で残したものと、消したもの」で説明しているバックテストは、この金利・クレジット層には適用していません。金利感応度は「直近3ヶ月に実際どう動いたか」の計測であって、「この関係が今後も続く」ことを検証したものではありません。トレンドの寿命の「見通し」やFear & Greedの扱いのように「効くことを確認した」と言えるものではない、という意味です。同じ画面に並んでいますが、根拠の種類が違います。
6. トレンドの寿命:開始・年齢・成熟度
「この波はいつ始まって、いまどのあたりか」を出している欄です。すべて価格の履歴から機械的に計算しています。
- 方向:22営業日の騰落がプラスなら上昇、マイナスなら下降
- 開始:直近70営業日のなかの押し安値(上昇時)または戻り高値(下降時)。ここが波の起点で、バーの長さは経過週数
- 勢い:直近5日の1日あたりペースと、20日の1日あたりペースを比較。0.7倍未満なら「減速」、1.3倍超なら「加速」、その間は「一定」
- 成熟度:50日移動平均からの乖離を、直近60日分の乖離の分布で標準化したZスコアを使用
成熟度の判定
| ラベル | 条件 |
|---|---|
| 過熱/売られすぎ(late) | |Z| > 1.5、または 8週以上かつ減速 |
| 初期(early) | 3週未満かつ |Z| < 1.0 |
| 中盤(mid) | 上記以外 |
上昇局面でlateなら「過熱」、下降局面でlateなら「売られすぎ」と表示されます。同じ判定結果に、方向によって別の名前を付けているだけです。
7. 検証で残したものと、消したもの
(この節の検証対象はトレンドの寿命から出す「見通し」です。上の金利・クレジット層は対象外です。)
ここがこのページで一番読んでほしい部分です。トレンドの寿命から出す「見通し」は、過去2年・約1.2万サンプルのバックテストにかけて、実際に効いたサインだけを残しています。
残したもの
- 順張り継続:上昇しているものは上昇を続け、下落しているものは下落を続ける傾向が確認できました。だから上昇トレンドの見通しは、成熟度に関係なく「上昇継続」です
- 売られすぎ→反発:下降局面かつ成熟度lateのとき、反発する確率が有意に高い(+7ポイント)。唯一しっかり効いた逆張りサインです
消したもの
- 「過熱→反落」:逆効果でした。過熱と判定された対象は、その後もむしろ上昇を続けました(平均+3%)。直感に反しますが、検証結果に従って反落予測そのものを撤去しています
- 「転換の兆し」:トレンド転換を検出しようとした分類は、成績がノイズと区別できませんでした。カテゴリごと削除しています
外部指標も同じ方法で検証しています
2026年8月、Fear & Greed 指数(恐怖・強欲指数)を同じやり方で検証しました。全履歴3,118日(2018年2月〜)を調べたところ、効いたのは「強欲」側だけで、「極度の恐怖だから買い」は重複を除いた検定で優位性が消えました。逆張りの道具として紹介されるのが定番の指数ですが、FLOWではトレンド継続の確認としてのみ使っています。→ 検証の詳細と数値
つまりダッシュボードに「過熱だから売り」という表示は出ません。意図的に出さないようにしています。過熱ラベルは「この波は長く走ってきた」という事実の記述であって、売りシグナルではありません。
8. この数字でできないこと
- 指数そのものの動きではありません。数値はセクター内の代表銘柄・代表ETFの騰落率であり、時価総額の構成比で加重した指数とは一致しません
- 暗号資産のセクターは代表トークンの単純平均です。ナラティブ単位のざっくりした強弱として見てください
- 季節性は経験則です。需給カレンダーに基づく傾向であり、その年に当てはまる保証はありません
- 個別銘柄には触れていません。FLOWが見ているのはセクター単位の資金の向きです
- すべて過去の値動きです。モメンタムは定義上、過去にどう動いたかしか語れません
- 金利・クレジット層は検証していません。しきい値を超えたかどうかの計測と、一般に知られている関係の記述にとどまります
実際の画面でどう使うかは このサイトの使い方 にまとめています。数字そのものは ライブ・ダッシュボード で毎朝更新しています。